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雑誌「ビッグイシュー日本版」をお勧めします

2009929

宇佐美 保

 

 最近まで、街頭でパンフレットのような雑誌を掲げて立っている方々を「駅等に於いてある無料のパンフレットを販売してお金を得ている方々のかしら?」と私は誤解し、避けていました。

 

 しかし、知人から“そうではない!”との注意を受けました。

どう違うのかは、私がとやかく書くよりも、その印刷物(雑誌「ビッグイシュー日本版」)の表紙の裏に書かれている文言の一部を次に掲げさせて頂きます。

 

 ビッグイシューは、ホームレスの人々に収入を得る機会を提供する事業として、1991年に英国ロンドンではじまりました。ビッグイシューを創設し、その基礎をつくったのはジョン・バードです。

 雑誌販売者は、現在ホームレスか、あるいは自分の住まいを持たない人々です。……

最初、販売者は、この雑誌10冊を無料で受けとり、その売り上げ3000円を元手に、以後は140円で仕入れ、300円で販売し、160円を彼らの収入とします。……

 

 このことを知って以来、街頭に立たれる販売者の姿を見かける度に、その「ビッグイシュー」を購入しています。

 

 でも、悲しい事に、

或る販売者のお話では、“一日の販売数は20部くらいかな?”と言うことでした。

だとすると、1日中立っていて、3200円の収入と言うことになります。

 

 それに、別の方のお話ですと、

“一日朝の8時から、夜の8時まで立っている”

との事でした。

しかも、座ってはいけないのだそうです。

座るとその場所を占拠したこととなって、営業許可など問題が発生してしまうのだそうです。

そして、雨の日以外は、毎日(販売場所は変えて)立っているとの事でした。

“雨の日は商品が濡れてしまいますから、図書館で色々な本を見ているんです。そして、興味を持った事柄を次々調べてゆくのです。それも一日中。”と答えてくれました。

 

 

 それでも

“以前は、食事はお握りだけとか、食パンを何もつけずに食べていたのが、
今では御弁当も食べられる”

と明るい顔で答えてくれました。

 

(更に、コンビニの裏に回って、賞味期限で捨てられている御弁当を食べたり、優しい店員さんが内緒ですよと言って捨てる前の御弁当を下さった事もあったそうです。

それから、街中で捨てられている雑誌を拾ってお金に変えたりと、但し、駅の中などは又、縄張りなどがあるそうです。)

 

 只、この雑誌「ビッグイシュー」の新刊発売日は、毎月2回(1日と15日)だけなのだそうです。

でも、“新刊だからといって、大量に仕入れてしまうと(冒頭に書きましたように、仕入れ価格は140円)、

売れ残ると全部自分の在庫

になってしまうから、売れると思っても一時に余り大量には仕入れられないのです。それでも、ここに45万円ほどの在庫を抱えているのです。”と嘆かれました。


45万円ほどの在庫を抱えている

“コンビニのお弁当のように賞味期限が来たら廃棄せよと言われないのだけは救いですよね。でも、雑誌ですから、古くなるのも問題ですね。”

販売員さん “それでも、古い雑誌がインターネットのオークションで高値(例えば、2万円)で売られたりしているのです。”
“裏表紙のバックナンバー紹介には「SOLD OUT」の赤文字が印刷されているナンバーが何冊も載っていますが、これらがそうですか?”
販売員さん “そうです、それらの何冊かは、私の在庫にあります。私がオークションに出すのは問題ですが、よろしかったら、御譲りしますよ、勿論定価で。”
“いや、そのナンバーが欲しいと言う方に御譲りしますよ、そして、新規のお客さんを増やしてください、私は、別の(失礼ながら)売れ残りを協力させて頂きますから”
販売員さん “ある時、一寸目を離したら、年配の女性がお金も払わず私の大事な商品、それも一番高価な「世界一あたたかい人生相談(定価:1400円)」と言う本を持ち去ってしまったのですよ!”
“では、私に、その本を1冊売って下さい。”


 

 その本の帯びには、

精神科医の香山リカさんの「精神科医のクスリより、よく効きます」の推薦文

が載っており、中を開くと「はじめに」の文が次のように書かれています。

 

 

誰もが悩みの一つや二つ、抱えながら生きています。

…………

そんな悩みに、街角で雑誌を売って自立をめざす、ビッグイシュー販売員が答えました。

……

 

 その中の一文を紹介させて頂きます。

 

仕事がつまらなくて、すべてがむなしいです
Q 大学を卒業し、今は小さな会社に勤めています。仕事がつまらなくて、すべてがむなしい。転職も考えるものの、特にやりたい仕事があるわけでもなく、得意なものもありません。将来への漠然とした不安もあります。販売者さんは、続けておくべきだったと思われることや仕事がありますか?(20代/女性/事務職)
A

本当は相談に答えるような立場じゃないんです。僕の人生は、全部挫折してきて大阪・西成にたどり着いたわけですから。兄弟や家族、親、全部捨ててきた。その時に人を愛することをやめたんです。友達もつくらず、十何年間生きてきた。愛することがないから愛されることもなかった。

 でもね、ビッグイシューに出合って、スタッフやお客さんやいろんな人に出会って、変わったんです。人を愛すれば、人を好きになれるし、その人たちがいる街も好きになれる。西成に来た当初は平気で道にゴミを捨ててたような人間の僕が、今じゃタバコの吸殻を拾って歩いたりするんですから。

 あなたは、仕事がつまらないと言っておられるけれど、本当は仕事ではなく生き方に悩んでるんじゃないでしょうか。

 自立という言葉がありますよね。意味は人それぞれ違うと思うんです。僕は、どんな仕事を探すかではないと今は思っています。仕事ではなくて、生き方の問題やと思うんですよ。僕は50歳過ぎて、自分の人生を振り返った時にね、「つまらん人生やったな」と思ったんです。そんなふうにしか思えないことほど、つらいものはないですよ。

 若い頃、西成に来て、一人でいると楽だったけど、でも、どこかでむなしさも感じてました。今は、自分のためにではなく、人のために何かできないかと思っているんです。今も、決して幸せな生活ではないし、大変ですけど。

振り返って、つまらん人生だと思うのは本当につらいから、そうは思わないような生き方をしたい、とね。

 偉そうに人に言えるような人間じゃないんですけれど、あなたも何かを愛することができれば、きっとやりたいことも見つかるし、すべてが変わってくるんじゃないでしょうか。

Aさん)

 

 

 香山リカさんのご推薦通りに、とても素敵な人生相談だな〜〜!と思います。

 

 偉そうな事を言える立場でない私ですが、この雑誌ビッグイシューを買うのも「自分のためにではなく、人のために何かできないかと思っている」の一環ですし、販売員さんと立ち話するのも、私みたいな人間が話していれば、道行く人達の販売員さんへの印象(私が当初抱いていた)が異なるのでは?との思いもあるのです。

(私では、却って逆効果では困ってしまうのですが?どうでしょうか?)

 この件にも関係しますので、もう一文紹介させて下さい。

 

自分の実力がなかなか認められない会社にウンザリしています
Q 私が勤める会社は、仕事ができるかどうかではなく、上司に気に入られるかどうかで評価されます。私のように接待の席順や空のコップヘの気配りが苦手な人間は、上司にたっぷり絞られ、いい仕事が回ってきません。根回しや政治力重視の職場環境に、近頃やる気をなくしています。よい対処法があれば敢えてください。(27歳/男性/会社員)
A

 若い時、俺も自分で仕事ができると思ってたけれど、なかなかその一所懸命さがわかってもらえず、職を転々とした。この人は、仕事がしたくて今の会社に入ったんだろうが、日本の社会ほ「就職」ではなく「就社」なんだよな。濃密な人間関係が求められる一つの「ファミリー」なんだよ。

他へ移っても同じことの繰り返しになるから、今の会社は辞めない方がいいと思う。

 これからは、仕事の時は、本当の自分から、ガチャンとスイッチを入れ替えてみよう。本当の自分は別にとっておきながら、まるで役者が舞台に上がったように別人になる。俺も昔と比べたら、ずいぶんとまるくなってうまくやれるようになったね。

 さて次に、飲み会の席。スイッチを入れ替えて、「社長、お疲れさまです」とおべっかを言ったところで続かなかったら、どうしようもない。人と話すのが苦手でもいいと思う。

 今ではベラベラ何時間でもお客さんと話している俺だけど、この仕事を始める前は、めったに人と話すこともなかった

 俺はね、本を読むのが好きなんだ。こんなことになったから、図書館で一日中、新聞を読めるし、飽きないんだ。「イラク情勢」「原発」から「スポーツ」まで、じっくり読んで、自分の意見をめぐらせていた。


 忙しいだろうけど、朝は新聞を隅から隅まで、読み飛ばさない。最初はネタ探しでも、やがては自分の趣味や興味へと、だんだん広がってくる。結論は出さなくてもいい。何かの時に、貯めこんでいた引き出しから、ふいに話のきっかけができるようになる。あとは、相手が釣り好きとわかったら、「釣りはよくわからないけど、教えてください」と、聞き役に回る。そうすれば、そのうちに、いろんな人からかわいがられるんじゃないかな。

Hさん)

 

 

 ここでの販売員さんの“今ではベラベラ何時間でもお客さんと話している俺だけど、この仕事を始める前は、めったに人と話すこともなかった”を読ませて頂くと、私は販売員さんの為と思って立ち話をしていたと思っていたのですが、逆に販売員さんが私の為に立ち話に付き合って下さっていたのかもしれません。

 

 いずれにしましても、御互い
自分のためにではなく、人のために何かできないかと思っている」が
実行できたのだと存じます。

 

 そして、この本には、料理研究科の枝元なほみさんが、それらの悩みと回答に合う、料理をカラー写真と共に紹介しておられます。

とても素敵な本だと存じます。
(尚、これらの御話しなどは、毎号1編づつ雑誌に掲載されています)

 

 私の立ち話よりも、もっとビッグイシュー販売員さんに協力出来ればと思い、この一文を認めさせて頂きました。

皆様、如何でしょうか?

 

 雑誌「ビッグイシュー」の内容も素晴らしいので、その一部を次の拙文《松代巨大地下壕と原子爆弾》にて紹介させて頂きたく存じます。

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